■映画史上最高の俳優
ことあるごとに、口にすることではあるのだが、このコーナーでは公開していないだけに、まず発表してしまおう。映画史においては、4人の最も偉大な俳優がいる。
それは…
大河内傳次郎
原節子
キャロル・ロンバード
エドワード・G.ロビンソン
順不同のつもりで列挙したが、自分の中では、この順番で微妙に位置づけがなされているのかも知れない。
この4人については論を待たないのだが、先日、思いもよらぬ質問をされて、わずかながらうろたえずにはいられなかった。
下村氏から発せられたその質問とは、
「その4人はわかりました。でも、次に続く俳優が知りたいんです」
というものだった。
この4人の偉大さとは、他に映画俳優が誰一人存在しなくても、まったく支障をきたさないといったレベルのものなのだ。次の俳優だなんて、考えたこともなかった。
それでも、興味をひく質問ではある。次を考えてもよいか、という気にもなってくる。
そこで、失われた、というわけではないのだが、あらかじめ存在しない10人のベスト俳優を思い浮かべてみる行為に出ようと思い立ったのだ。
■これらの素晴らしき俳優たちよ
何の足がかりもなく、無作為に優れた俳優を選び出すというのは、非常に難しい。
そこで、映画史上のベスト100を振り返り、そこに出演している俳優から選出するという、とりあえずの方法をとってみる。
ざっと見渡すと、以下の通りだ。
田中絹代
市川雷蔵
リリアン・ギッシュ
イザベル・ヴェンガルテン
イングリッド・バーグマン
アナ・トレント
ジャン=ピエール・レオー
アンヌ・ヴィアゼムスキー
ジャン=マリア・ボロンテ
クリント・イーストウッド
何しろ100本あるのだから、述べ100人の俳優が出演している計算になるところから、本当に気に入っている名前を選んだ結果がこれである。
100本のうち、いちばん多く主演しているのが、原節子の4本。これは当然といえるだろうが、大河内傳次郎がたった2本というのが、自分でも意外だった。原節子に続くのが、何と市川雷蔵とリリアン・ギッシュのそれぞれ3本とは、これも驚きだ。
ま、100本中の主演数がそのまま評価につながるわけではないのだが、やはり市川雷蔵とリリアン・ギッシュは、最も偉大な4人に続く存在であることは否定できまい。
田中絹代は、溝口健二作品の主演ゆえ、と思われるかも知れないが、最も好きな映画は、成瀬巳喜男の『おかあさん』である。それがゆえ、この映画で田中絹代の娘を演じた香川京子も大好きということになる。
イングリッド・バーグマンは、一般的には最も偉大な4人以上に思われているのかも知れないが、個人的には、一線を引いておきたい。ちなみにイングリッド・バーグマンのベスト100入選作は、レオ・マッケリーの『聖メリーの鐘』とロベルト・ロッセリーニの『ストロンボリ』である。
イザベル・ヴェンガルテンは、主演作の絶対数こそ少ないが、ロベール・ブレッソンの『白夜』とヴィム・ヴェンダースの『ことの次第』に主演しているというだけで
、映画史に燦然たる輝きを放っている。アナ・トレントは『ミツバチのささやき』だけと思われるかも知れないが、実は主演作は多い。もちろん、アナ・トレント主演作でベスト100に入るのは、『ミツバチのささやき』1本だけだが。
フランソワ・トリュフォー一家の金看板ともいえるジャン=ピエール・レオーは、トリュフォー監督による一連の作はもちろんなのだが、『中国女』といったジャン=リュック・ゴダールの映画に主演していることも見逃せまい。『中国女』から、当然のことながら、アンヌ・ヴィアゼムスキーが浮上し、『バルタザールどこへ行く』といったロベール・ブレッソン作品へも思いが波及していく。
ジャン=マリア・ボロンテとクリント・イーストウッドが並んでいるというのも、意味深なものがあろう。しかし、この2人が主演した『荒野の用心棒』は、ベス100に入っていない。ジャン=マリア・ボロンテはクロード・ゴレッタ監督の『マリオ・リッチの死』、クリント・イーストウッドは自らが監督した最高傑作『センチメンタル・アドベンチャー』が、それぞれベスト100に入っている作品である。
テオ・アンゲロプロスは、『ユリシーズの瞳』で、エルランド・ヨセフソンの役をジャン=マリア・ボロンテに演らせたいと考えていたそうだ。この映画には、「ジャン=マリア・ボロンテに捧ぐ」といったタイトルが挿入されている。テオ・アンゲロプロスに限らず、あの役は、ジャン=マリア・ボロンテにどうしても演ってほしかった、と望む者は後を断たないはずだ。
たかだか100本の中から選び出したこの10人。100本以外に存在する無数の映画群からは、さらに多くの俳優たちが浮上するはずだ。ミッシング・テンに続く俳優たちを選び出しながら、それに思いを馳せるのも、また楽しいことではある。
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